「目次」
交通事故鑑定は、当事者のどちらが正しいか、どちらの過失が大きいかに関して、見解や判断を示す立場にはありません。
鑑定人がなすべきことは、事故で生成された客観的事実に基づいて、事故の成り立ちを自然で矛盾なく証明することです。
つまり、事故の過程をそのまま再現するのであり、そのひとつひとつに、事実であったことを裏付ける根拠が必要となります。
先入観や固定観念にとらわれては、正確な事故鑑定は不可能となります。
「中立公平を保ち、すべてをゼロの視点で観る」ことが基本理念の1つめとなります。
次に、誰もが事実と認める物証、客観的事実に基づく「現象鑑定」を優先することです。
人証(人の証言)は、思惑、利害、誤認によって変化する可能性があります。
交通事故鑑定は、安易に人証に頼らず、数多くの現象事実(破損痕跡など)に基づく事実証明でなければ、価値はありません。
交通事故調査鑑定は、資料収集と事故調査から始まり、そのプロセスは下記となります。
① 現象事実の調査把握
② 現象事実の精査監察
③ 現象事実の整合検証
④ 現象鑑定での結論
⑤ 工学事実の調査把握
⑥ 工学事実の総合検証
⑦ 工学鑑定での結論
⑧ 鑑定事項の総合結論
事故現場、現物を重視して「極めて小さな痕跡も見逃さない」事故調査の実務が、現象鑑定の前提となります。
客観的事実に基づいた現象鑑定こそが、事故実態を忠実に現すものであり、あらゆる応用学を駆使して解析することが求められ、残された痕跡を詳細に検証し、鑑定することが最も重要となります。
事故車の破損状況、路面上の痕跡、落下物などを調査し、実況見分調書で示された事故状況との整合性を検証していきます。
鑑定人が、現存する物証を詳細に調査する実務が伴うことにより、客観的な証明を提示できるため、交通事故鑑定では事故調査が鑑定業務の第一歩となります。
ある事故で車両や路面に残された痕跡は、その事故でしか残されない「有形現象状態」で、これを「現象事実」と呼びます。
これらを鑑定していくことを現象鑑定といい、具体的には、
・路面上のタイヤ痕跡
・血痕
・擦過痕の形状
・オイル痕
・落下物の位置
・人体の落下地点
・人体の損害位置と形状
・当事者の持ち物破損
・車両の停車位置または転倒位置など
となります。
これらを含めて、衝突速度、衝突角度、制動距離によっておこる事故車両の破損痕跡から、形状・特徴・力の大きさの一致について、現象事実の整合性を解析証明します。
交通事故鑑定における「工学」とは、所与の条件下で最適かつ合理的な推定値を得ることを目的とした方法論を意味します。
交通事故に工学的方法を適用する場合、車両の変形・破損の状況、路面の痕跡、人体の受傷部位等が、「工学的束縛条件」となり、物理法則や部位の特性等を考慮して計算モデルを構築していきます。
この計算モデルが十分に現実を近似できていれば、最終的に車両が停止した位置・向きなどから、衝突地点や衝突時の速度などを特定あるいは推定することが可能になります。
つまり、交通事故鑑定における「工学的束縛条件」は、現象鑑定というプロセスから得られる必要があり、工学という手法で推定を行う場合には、モデルが現実の事故をどれだけ十分に反映しているかが極めて重要な問題となります。
【参考情報】
交通事故鑑定人と鑑定書について
事故現場の検証、解析調査、交通事故鑑定の流れ【ご依頼手順と注意事項】
|